​「借りるな、買え!」と怒られた日のこと。なぜ大人の読書は「身銭」を切る必要があるのか?

ドッグイヤーした本

皆さんは、こんな経験はないだろうか。

​ブックオフの100円コーナーで「これなら失敗してもいいか」とカゴに入れた本。結局、積まれたままホコリを被っている。

図書館で数ヶ月待ちで借りたベストセラー。返却期限に追われて流し読みし、内容を1ミリも覚えていない。

​なぜ、「安く手に入れた情報」や「借りた知識」は、右から左へ流れてしまうのか。

​理由はシンプル。

情報そのものの価値ではない。

自分自身の「痛み(コスト)」と「所有権(汚せるかどうか)」の問題だ。

​今日は、なぜ僕ら大人が「身銭」を切って本を買うべきなのか。

行動経済学のデータと、僕のちょっとした失敗談をもとに話そう。

​なぜ、「安売り」の本は血肉になりにくいのか?

​誤解しないでほしいが、「高い本=良い本」という単純な話ではない。

これは脳の仕組み、いわば自分自身との心理戦の話だ。

​「元を取る」という執念の正体

​人間には「支払ったコストを無駄にしたくない」という現金な心理が働く。

これを行動経済学で「サンクコスト(埋没費用)効果」と呼ぶらしい。

​この効果を証明した面白い実験がある。

1985年、オハイオ大学のアーケスとブルーマーが行った「劇場のチケット」に関する研究だ。

​彼らは、同じ劇のチケットを以下の3つの条件で販売した。

  1. 定価(15ドル)
  2. 少し割引(13ドル)
  3. 大幅割引(8ドル)

​結果はどうなったか。

「定価」で買ったグループが、最も欠席率が低く、足繁く劇場に通ったのだ。

一方で、安く手に入れたグループは「ま、行かなくても損は少ないし」と、簡単にサボる傾向が見られたそうだ。

​読書もこれと同じだと思う。

100円で買った本や、無料で借りた本には「痛み」がない。だから脳がついサボってしまう。

​でも、定価で2,000円払った専門書ならどうだろう?

「絶対に元を取ってやる。何か一つでも仕事に活かさないと損だ」

この「回収への執念(コミットメント)」が、学習効率をグッと引き上げてくれるわけだ。

​「借りるな、買え!」先輩が教えてくれた本当の意味

​昔、職場のとても仕事ができる先輩に本を借りようとして、怒られたことがある。

「その本、読み終わったら貸してくださいよ」

​先輩は即答した。

「買えよ、このぐらい!」

​正直、「ケチだなあ」なんて思ってしまった。

今思えば、その先輩も本をドッグイヤーで折りまくり、サインペンで片っ端から線を引く人だった。

​僕が読みたいと思ったその本は、すでにドッグイヤーだらけで線だらけだった。

​先輩は特に僕に本の読み方を教えてくれたわけではないが、本の内容をちゃんと自分のものにするには買った方が良いと確信していたのだろう。

僕は本を「情報源」としてしか見ていなかった。

先輩は本を「ツール」として使い倒していたのだ。

​借りた本は汚せない。

汚せないということは、自分の思考を書き込めないということ。

​本を「汚す」覚悟が、記憶を定着させる

なぜ書き込みが重要なのか。 これは認知心理学の「処理水準説(Levels of Processing)」でも説明がつくらしい。

「ただ見る」だけでは脳は働かない

研究によれば、情報を単に目で追うだけの浅い処理(形態的処理)は、記憶に残りにくい。 一方で、意味を考えたり、自分の言葉に置き換えたりする深い処理(意味的処理)を行うと、記憶の定着率は跳ね上がる。

本に線を引く、書き込むという行為は、強制的にこの「深い処理」を脳にさせるスイッチなのだ。

  • 線を引く判断 = 「どこが重要か?」を脳が選別している。
  • メモを書く = 情報を自分の言葉で「生成(Generation Effect)」している。

実際に手を動かす

だから僕は手を動かす。 重要だと思ったページの角を折る。これは物理的なマーキング。 線を引く、余白に書き込む。これは脳への書き込みだ。

実際に僕の本棚にある本も、こんな状態になっている。

本に書き込まれたメモ
超箇条書きという本に書き込んだメモ。ついつい部下のことかな、とバイネームで書いてしまった

​「ここ、重要!」と手を動かした瞬間、脳にフックがかかる。

ただ読むだけとは、定着率が段違いだ。

​「所有」しないと始まらない

​当然だけど、これらは「自分の所有物」でなければ不可能だ。

図書館の本に線を引くわけにはいかない。

​最近流行りの「読み終わったらメルカリで売る」という読み方も、僕にはちょっともったいなく感じる。

「売るために綺麗に読む」なんて、本末転倒じゃないだろうか。

数百円のリセールバリューを気にして、数千円分かそれ以上の価値がある知識を逃す。

​本を汚した瞬間、その本は「ただの印刷物」から「自分だけのパートナー」になる。

​血肉にするための自分なりのルール

​小説やコラム集にまで線を引いたりはしないが、ビジネス書や啓発本を読むときは必ずペンを持つ。

正直ペンはなんだっていいと思う。自分が気に入ったものを使うべきだ。

僕の場合は電車やカフェでノック音をまき散らすのが嫌なので、静かなペンを使う。

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​実際に読むときにはさほど厳密にルールを守るわけではないが、大体以下の3つぐらいのことを心にとどめておくと、捗る。

ごとうの読書ルール

  1. 迷わず引く 「重要かな?」と思ったら線を引く。間違っていてもいい。消せるペンを使う手もあるが、僕はあえて消えないペンを使う。その時の思考の痕跡だからだ。
  2. ドッグイヤーは大胆に ページの角を折るのをためらわない。本が膨らむ? それこそが読んだ証だ。
  3. 復習は「痕跡」だけを追う 読み終わった後、線やドッグイヤーの箇所だけをパラパラと見返す。 これなら5分で要点が復習できる。
    場合によっては前後の文脈にも目を通す。すると新たな発見があるときもある。

​まとめ:知識には「対価」を払う必要がある

​大人の時間は限られている。

質の低い「ながら読書」で時間を浪費している暇はないはずだ。

​「この本は今の自分に必要だ」と思ったら、迷わず定価で買う。

そして、ガシガシ汚して使い倒す。

それが一番の「コスパ」だと、僕は思っている。

​あなたの本棚には、ボロボロになるまで読み込んだ本は何冊あるだろうか?

まだないなら、今すぐその綺麗な本を開いて、ペンを入れてみてはどうだろう。

最初は勇気がいるが、教科書みたいなものだと思えばさほど難しくはないはずだ。

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この記事を書いた人

40代のITコンサルタント / マネージャー。
0と1のデジタルな世界で「効率」を追求する反面、プライベートでは「手触り」のあるアナログな道具を愛する。
愛機はFUJIFILM X-E4とLAMY Safari。
都内近郊の「窓のない書斎」にて、仕事道具への投資対効果と、大人の生活の質(QOL)について思考する日々を記録中。

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