【ブックレビュー】疲労学|「休日はスマホ」が脳を殺す。40代からの正しい休み方と情報の断捨離

週末、泥のように眠ったはずなのに、月曜の朝から体が鉛のように重い。 PCを開く前から、すでに「帰りたい」と思っている。 そんな経験があるなら、あなたの休み方は根本的に間違っている可能性がある。

「体を休めれば疲れが取れる」というのは、肉体労働が中心だった時代の古い常識だ。 現代のデスクワーカー、特に常にマルチタスクを強いられる我々40代の疲労の正体は、筋肉の疲れではない。「脳の疲れ」だ。

先日、書店をウロウロしているときになんとなく目に入り、特に中身も確認せずに購入した「疲労学」についてレビューを書いてみようと思う。 著者は片野秀樹氏。前作『休養学』の続編的な位置づけの一冊だ。

結論から言おう。 本書は、手放しで絶賛できる「名著」ではない。 論拠の甘さや、首を傾げたくなる箇所も散見される。 だが、その「粗さ」を差し引いても、本書が指摘する「現代人は情報を食べ過ぎている」という事実は、痛いほど我々の急所を突いている。

なぜ、日本人は「休んでいるつもり」で疲れていくのか

まず、本書の根底にある問題提起はこうだ。 「日本人は休んでいるようで休んでいない」。 労働時間は減少傾向にあるのに、なぜか疲労感は増している。

それは「質の低い休息」を休息だと勘違いしているからだという。

我々の日常を振り返ってみよう。 仕事の合間にスマホでニュースを見る。 帰りの電車でSNSをスクロールする。 帰宅後、動画サイトでショート動画を次々と眺める。

これらを「息抜き」と呼んでいるが、脳科学的に見ればこれは休息ではないようだ。 大量の光と情報の奔流を処理し続ける、立派な「情報処理労働」だ。 休日にソファで一日中スマホを触っていたとしたら、それは「一日中、脳にデータを流し込み続けていた」のと同じことだ。

体が動いていないだけで、脳はフルマラソンを走っている。 これでは疲れが取れるはずがない。

40代が実践すべき「脳の3大メンテナンス」

本書には多くの健康法が書かれているが、正直なところ「野菜を先に食べろ」「ゆっくり食べろ」といった、耳にタコができるような一般論も多い。 そういった「ノイズ」はすべて削ぎ落とし、多忙なビジネスパーソンが明日から使える「ハック」だけを3つ抽出した。

1. 「情報の断食」という荒療治

最もシンプルで、かつ最も実行が難しいのがこれだ。この本によれば、スマホやゲーム、動画による情報の流入が脳をフル回転させて休ませることができない。

私自身、この指摘にはぐうの音も出ない。 特にショート動画だ。 数秒ごとに切り替わる映像と音声は、脳にとって強烈な刺激物だ。 「つまらない内容をつい見てしまい、ムダな時間を過ごした」という後悔。 この精神的なダメージに加え、脳のリソースを無駄遣いしているという事実。

物理的にスマホを金庫にしまうくらいの覚悟で「情報の断食」を行わない限り、現代人の脳は休まらない。 まずは「トイレにスマホを持ち込まない」。 そんな小さな一歩から始めるしかない。

2. ストレスの「棚卸し」と可視化

ビジネスの現場では、在庫管理やタスク管理を徹底する。 だが、自分の「ストレス管理」となると、とたんにドンブリ勘定になる人が多い。

本書では、会社が棚卸しをするように、自分が直面しているストレスの中身や量を定期的に整理することを勧めている。

この「定期的に」というのが肝だ。 私の場合を例に挙げよう。 20代の頃のストレス源といえば、もっぱら「不十分な報酬」や「理不尽な上司」だった。 しかし、40代になった今、ストレスの質は変わっている。 ここ1〜2年は、「育児」や「家族とのコミュニケーション」といった、正解のない問題が大きなウェイトを占めるようになった。

敵の姿が変わっているのに、20代の頃と同じ戦い方をしていては勝てるはずがない。 ノートを開き、今、何が自分を圧迫しているのかを書き出す。 可視化できれば、対策が打てる。 これはコンサルティングの基本動作だが、自分自身に対してこそ行うべきだ。

3. 「攻めの休息」

「休む」=「何もしない」ではない。 本書では、あえて軽い負荷をかけるような余暇の過ごし方を「攻めの休息」として推奨している。 散歩でも、軽い読書でもいい。 重要なのは、受動的に情報を浴びるのではなく、能動的に体を動かすことだ。

例えば好きな小説を読むことや、趣味のパズルなどに取り組むのも良いだろう。日曜大工のように実際に体を動かすのも良いようだ。

そしてもう一つ、 脳が活性化していない、ぼんやりとした時間。 この時、脳のデフォルト・モード・ネットワークが働き、情報の整理が行われる。 クリエイティブなひらめきは、PCに向かっている時ではなく、この「ぼんやり時間」に生まれる。

常に何かをインプットしていないと不安になる「情報貧乏性」の我々は、この「意図的な空白」をもっと大切にするべきだ。

ITコンサル視点で指摘する「論理的違和感」

ここまで有用な点を挙げてきたが、ここからは「批判的な視点」も提示しておく。 本書を盲信するのは危険だと感じる部分があるからだ。 著者の主張には、いくつかの論理的飛躍がある。

根拠なき独自理論「DRICS」

本書の中核をなす理論として「DRICS(ドリックス)理論」なるものが提唱されている。 疲労に対処するためのフレームワークらしいが、読み進めても違和感が拭えない。 この理論、医学的・科学的にどこまで検証されているのかが全く不明なのだ。 参考文献の提示もなく、エビデンス(証拠)が示されていない。

著者の片野氏以外の文献で、この用語を見たことがない。 もしこれが著者独自の「仮説」に過ぎないのであれば、それをあたかも科学的事実のように語るのは誠実ではない。 我々がクライアントに提案書を出す際、こんなに根拠の薄いフレームワークを使えば、信頼を損ねてしまうだろう。

DRICSで検索すると、見事にAIも間違っていた

「スマホ依存」は日本だけの問題か?

「日本人は休んでいない」という主張の根拠として、電車内でのスマホ利用などが挙げられているが、これにも異論がある。 海外に出張に行けばわかるが、ニューヨークでもロンドンでも、地下鉄に乗れば誰もがスマホを見ている。 スマホゲームやショート動画の流行は、世界的な潮流であり、日本固有の病理ではない。

グローバルな現象を、無理やり「日本人の気質」に結びつけて論じるのは、いささか論拠が弱いと言わざるを得ない。

実践論の欠如:SOCはどう上げる?

本書では、ストレスに対処する力として「SOC(Sense Of Coherrence)」の重要性を説いている。 SOCが高い人はストレスに強い。だからSOCを高めよう。 論理は正しいのだろう。 だが、「どうすればSOCが高くなるのか?」という具体的なトレーニング方法(How)についての記述が、決定的に不足している。

「ストレスに強くなれ」と言われて強くなれるなら、苦労はしない。 概念としては正しいが、アクションプランに落とし込めないもどかしさが残る。

結論:この本は「アラート機能」として使う

総評として、この『疲労学』はどういう本か。 全体的に内容はライトで、専門書としての深みには欠ける。 「根拠・ファクト」を重視する読書家には、物足りないだろう。事実、僕は読み進めながらエビデンスはどこだ?ないのか?と探しながら読むことになった。

だが、この本の価値はそこではない。 「スマホを見ている時間は、休憩ではない」 この当たり前だが忘れがちな事実を、改めて突きつけてくれる「アラート(警報)」としての役割だ。

内容は薄いが、読んですぐに行動に移せる手軽さはある。 週末、あえてスマホを家に置き、手ぶらで散歩に出てみる。 それだけで、月曜日の朝の景色が変わるかもしれない。 そのきっかけとして読むならば、本書は十分に元が取れる投資だ。

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この記事を書いた人

40代のITコンサルタント / マネージャー。
0と1のデジタルな世界で「効率」を追求する反面、プライベートでは「手触り」のあるアナログな道具を愛する。
愛機はFUJIFILM X-E4とLAMY Safari。
都内近郊の「窓のない書斎」にて、仕事道具への投資対効果と、大人の生活の質(QOL)について思考する日々を記録中。

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